記事一覧

ミラーレスカメラのローリングシャッター歪みとコンニャク歪み。

フルサイズミラーレスのカメラを手にしたら、今までのようなコンパクトデジカメのように電子シャッターで無音無振動の30連写とか60連写とかが好きなように出来て、野鳥とかを一眼レフクォリティで撮りまくれるやんけ…とか想像して勇み足でフルサイズミラーレスを手にした人もいたりなんかするとしたら、世の中そうそう甘くは無かったなんて事をモヤモヤと思いながら毎回フルサイズミラーレスを手にして野鳥だの風景だのを相手にしているんだろうな…なんて事を考えてしまう今日この頃です。

今日は、ミラーレスカメラ特有の「ローリングシャッター歪み」と「コンニャク歪み」についてのお話。
この二つは、呼び名は違うが同じ理屈で起こる物で、前者がスチル写真で、後者は動画で起こる。

私はフルサイズミラーレスを持っていないし、iPhoneやNikon1でガチに野鳥を撮った事などないので、実はローリングシャッター歪みのサンプルがない(笑)。コンニャク歪みは安物のドローン映像では見た事はあるが、私の持っている機材ではほぼ出ないって言うか出さない撮影をしますのでこれもサンプルがない…(汗)。
と言うわけで、どういう歪みなのかはそれぞれの語句でググってみてください。山ほど画像や映像が出てきます。それを見た事を前提に書いておこうと思います。
 
ググって見ての通り、動きの速い被写体で近い物ほど斜めに歪んで写真になっていると思います。動く電車の先頭を横から1/1000秒とかで撮影すると、電車がデコッパチになって写ってしまいます。これがローリングシャッター歪みという電子シャッター特有の事象です(現象ではないと思う)。
先述の通り、この歪みは動きの速い、そして近い被写体ほど顕著に出ます。遠いと動きがあまり目立たないと言うのがその理屈です。この遠近の歪みの差というのもまた顕著で、電車を横から撮影した場合、手前の窓枠は平行四辺形に写ってしまうのに、その2~3mの奥にある向こう側の窓は普通に写っていたりします。だからRAW現像での歪みの補正も複雑になります。
要は現在のミラーレスカメラに採用されている電子シャッターというのは素早い動きの被写体に弱いという致命的な欠点があるのです。その歪みが起こる原因はローリングシャッターという電子シャッターの仕組みにあります。

ファイル 146-1.gif
絵心がないので簡単すぎる図で申し訳ないですが、簡単に言いますとデジカメのセンサーはこんな風になっています。実際はセンサーには被写体である「あ」は逆さまに映り込んでいるのですが、話がややこしくなるので正面に描いています。
で、赤い横線が電気の流れるラインだと思ってください。
カメラマンが、「あ」を被写体にシャッターを切ると、電気は左の矢印のように上から順番に流れてゆきます。すると、当然ながら1番目と2番目のラインでは僅かですが時間差が生じてしまいます。で2番目と3番目も同じように時間差が生じてしまいます。これを順々に繰り返すと、「あ」が左から右に動いている被写体の場合、カメラのメモリにはこんな風に記録されてしまうのです。
ファイル 146-2.jpg
ググって見たサンプル画像(笑)と同じ感じですね。
要は一番上のセンサーはシャッターを切った瞬間の像を捉えますが、一番下のセンサーはその少し先の未来を捉えてしまうんです。ゴルフのスイングをする人を、横から撮影すると、クラブが弓のように曲がった、ある意味躍動感あふれる面白い写真が撮れてしまいます。そして推して知るべし、この歪みはセンサーが大きくなればなるほど電気を流すラインが増えますので収束させるのは難しくなってゆきます。
一方、センサーのサイズは小さいですが、動画も電子シャッターと同じで連写をし続けるという仕組みで動画を記録しますので、被写体が速く動いたり、カメラを動かすとぐにゃぐにゃと風景が歪んだ動画になってしまいます。これがコンニャク歪みというわけです。
 
では、これを防ぐにはどうしたらよいか…?
 
それは、シャッターを切った瞬間にセンサー全面にいっぺんに電気を流す「グローバルシャッター」という仕組みを採用する事になります。上記の図を見たら誰もが考える事ですよね。そのグローバルシャッターという仕組みは画期的なのですが、実はもう何年も前からカメラやセンサーのメーカーは研究開発をしていますが、未だに実用化は難しい状況です。
「言うは易し、行うは難し。」
とはよく言った物で、グローバルシャッターは正にそういう話で、センサー全面にいっぺんに電気を流し、撮像を受光したデータをいっぺんにメモリに取り込んで、いっぺんに記録メディアに流し込む機構を造らないといけません。出来ない事はありませんが、今の所ノイズが多く、処理速度も遅いので1/1000秒以上の写真をバシバシ撮るカメラを造るのは夢のまた夢のようです。
 
ではグローバルシャッターが出来ないとなったらどうするか?
 
それは、従来の一眼レフで長らく使われている「シャッター幕」を使う事です。
一眼レフカメラのレンズを外すと見えるミラーの向こうには、じつはシャッター幕という遮断機のような装置があるのです。はっきり見たい方はレンズを外して遅延シャッターをONにしてシャッターを切ってみると見えます。
シャッター幕というのは、センサーにどれだけの時間光を当てるかを決定する装置で、シャッター速度と関係します。カメラマンがシャッターを押すと幕がパッと開いてセンサーに光を当てて、パッと幕が閉じて撮影が終了するという訳です。一瞬
「それってグローバルシャッターじゃん!」
って思うかも知れませんが違います。速いからそう思うだけで、ちゃんと上から順番に幕が下りて幕が上がりますからグローバルではありません。更に言うとシャッター幕は2枚で構成されています。1枚が幕を開けてセンサーに光を当ててゆき、もう1枚が追うように幕を閉じて遮光してゆきます。かなり緻密な動きをしているんですね。また、この仕組みでないとSS1/8000秒とかは無理です。
ファイル 146-3.gif

シャッター幕は電子シャッターの電気の流れよりも遙かに速い動きをしますので、ローリングシャッター歪みのような事はまず起こりません。起こったとすれば余程速い被写体を偶然近くで捉えたか、引くに引けないミラーレス信望者がレフ機でも起こる!と意地になって撮った写真位でしょう。
と言う事は、このシャッター幕の機構をフルサイズミラーレスにも採用してやれば、ローリングシャッター歪みは解消できるわけです。
ガチで撮影するぜ!というユーザーが大半のフルサイズミラーレスには「機械式シャッター」と言う名前で、この機構が入っており、今も尚そちらを使って撮影されているのが実情と言う事になりますが、それでもミラーは無くせた訳ですから、ミラーレス一眼というわけですね(笑)。
 
しかし…。
 
このまま話を終えるとソニーファンに烈火の如く怒られてしまいますのでご紹介しておきます。
ソニーのα9に採用されているセンサーは、メモリー内蔵(裏面照射)型センサーと言って、センサーが受像したデータをすぐにメモリーに記録する事で電気の流れによる時間差を(極力)解消し、電子シャッターによるローリングシャッター歪みを収束させる事に成功しています。つまり世界でただ一台、電子シャッターでウィークポイントであったローリングシャッター歪みが出ないフルサイズミラーレス一眼カメラは、ソニーのα9だけなのどぅわーーー!!
 
とまぁ、ソニーファンの皆さん、こんな感じでよろしいでしょうか(笑)。

実際にその通りなのですが、正直私は笑った。
一眼レフからミラーレスへ…という流れで、半ば棚からぼた餅のような形でフルサイズミラーレスの先進を走る事になったソニー。このローリングシャッター歪みが解消できたカメラを、何としてでもニコンやキヤノン(オリンパスやパナソニックも含めて)よりも先に創って世に送り出さないと、その先進性が失われる…という意地というか悲哀というか、私的には何とも言えないド根性を感じたのがこのα9でした。また、一眼レフなら3万円のカメラでもそんな歪みなど出ないのに、たったそれだけの為に60万近くもするα9に手をかけた人もいたのだとしたら、ソニーと心中しても良いと思えるほどのファンなんだなって思わされたのもまたこのα9というカメラでした(笑)。
 
さて、そんな(α9以外)致命的とも言える欠点を抱えたミラーレス一眼カメラですが世の中にはシャッター幕すらないミラーレスの方が多い昨今です、他にこのローリングシャッター歪みを解消する方法は無いのか…という事を考えましょう。
それは、実はとても簡単な事です。
「ローリングシャッター歪みを受け入れて面白い撮影をする。」
または、
「速く動く被写体を撮らない事」です(笑)。
流し撮りをしてもダメです。流し撮りをすると被写体は動きが論理的に止まるので歪みませんが、残念ながら背景が歪みます。しっとりと風景やお花などを撮るのがよろしいと思います。動き物はやはりまだまだ一眼レフの方に分があります。α9を含めてもね(あー言っちゃった:笑)。
一方の動画のコンニャク歪みはどうしたら良いかと言いますと、減光フィルターをかけて低速シャッターで撮影する事でかなり低減できます。DJIのドローンでも減光フィルターが売られているのはその為です。フレームレートの1~2倍のシャッター速度にするのが理想とも言われていますので、30fpsなら1/30~1/60、60fpsなら1/60~1/120になるように減光するとよいです。動画の方はUVやPLよりもまずNDを揃えましょう。
 
と言うわけで、今回はローリングシャッター歪みとこんにゃく歪みでした。