今年は2025年。つまり5年に一度、国が国民の人口動態や生活実態等を統計的に集計する「国勢調査」が行なわれる年です。
「こくせいちょうさ」と読みます。「こくぜいちょうさ」と「せ」に濁点を入れると聞き手によっては「国税調査」と解釈してしまい、特に末端で活動をされる方にとっては鬱陶しがられる原因になったりしますから、はっきりと「こくせいちょうさ」と言いましょう。
さて、庶民にとっては5年に一度とは言え、なかなか面倒臭い国家イベントではありますが、今までにもあったのかも知れませんが、今年は特に、この調査員で70才の男性の方が担当区域であったマンションの階段の踊り場で亡くなっておられたという不穏なニュースも流れ聞いたこともあり、また、特に今現在はその調査票の配布が為されている最中の期間という事もありまして、ちょっとカメラやゲームの事から離れまして、この国勢調査という物がどういった性格を持った物なのかを法令を参照しながら、調査員の立場、国民の立場双方から書き記してみたいと思います。
なお、マンションや集合住宅を自治体などから委託で管理されている周旋屋の「企業」の方は特にご一読をしておいた方が良いでしょう。知らないとエラい事になったりしますよ・・・。
さて、この国勢調査という物は統計法という法律の基づいて国家が行なう統計調査でございます。担当は「総務省統計局」行なっており日本国を運営して行く上での重要な統計調査という位置付けになっています。そして一定期間とは言えこの事務に従事する人間には「国家公務員」という身分が与えられます。つまり国民が直接接することになる「国勢調査員」は、一定の調査対象区域を担当しており、実際の調査票の配布を行なう前に、実際に人が住んでいるかどうか、空き家であるかどうか、新築家屋が建っていないかなど実地踏査を行なったりしながら「国勢調査のお知らせ」というビラを配布します。昨今では個人情報保護法があり、個人情報への関心も国民は高くなっていますから、実地踏査と言っても道行く人にあれこれ尋ねたり、公園で遊んでいる子供に聞き込みをしたり等はしません。あくまで黙々と生活の実態があるかどうかを目視で調べて行きます。国勢調査員は2025年現在の場合はオレンジ色の紐に総務省統計局発行の「調査員証」を首から提げており、「国勢調査2025」と直接印字された青いバッグを携行しています。訪ねてきた人間で更に不安な場合は調査ボードの裏側を見ると良いでしょう。青いボードで国勢調査2025の文字が直接印字であるはずです。この3つがあれば間違いなく本物です。国民から聞く内容は任意で世帯主か代表者の氏名のみです。これは調査票に記載して実際に回収された調査票を照合するために使うだけなので回答を拒否できます。
つまり、国家公務員である以上は、その行動には統計法に基づく「法的根拠」があるのです。これは国民の皆さんはもちろん、特に管理会社の方は痛いほど知っておきましょう。
さて、調査員は実地踏査が終わると実際の調査票の配布を基本的に「戸別訪問による対面」で行ないます。これは、手記で行なう調査票が5人以上の家族に対応していないこと、1つ屋根に2世帯以上が同居している可能性があるためです。つまり門戸を実際に叩くまで分からない事があるので対面受け渡しが基本になっているのです。
そこで、調査の時点に少し話を戻しますが、この調査票の受け渡しまでの一連の行為の中でもし正当な理由が無く調査を拒否したり、調査票の受取を拒否した場合はどうなるでしょうか。また、一番起こりうるのはマンションや団地等の集合住宅の管理会社に入居者の有無を問い合わせる等の行為についてです。ここは拮抗する法令がありますので、以下に掲げます。
●統計法第30条
行政機関の長は、前条第1項及び第2項に定めるもののほか、基幹統計調査を円滑に行うためその他基幹統計を作成するため必要があると認めるときは、地方公共団体の長その他の執行機関、独立行政法人等その他の関係者又はその他の個人若しくは法人その他の団体(次項において「被要請者」という。)に対し、必要な資料の提供、調査、報告その他の協力を求めることができる。
2、行政機関の長は、前項の規定による求めを行った場合において、被要請者の協力を得られなかったときは、総務大臣に対し、その旨を通知するものとする。
●個人情報保護法27条
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
1)法令に基づく場合
2)人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
3)公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
4)国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
5)当該個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、当該個人データの提供が学術研究の成果の公表又は教授のためやむを得ないとき(個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)。
6)当該個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、当該個人データを学術研究目的で提供する必要があるとき(当該個人データを提供する目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)(当該個人情報取扱事業者と当該第三者が共同して学術研究を行う場合に限る。)。
7)当該第三者が学術研究機関等である場合であって、当該第三者が当該個人データを学術研究目的で取り扱う必要があるとき(当該個人データを取り扱う目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)。
となっています。
色々と書かれていますが、サクッと説明すると、例えば回答拒否の理由として個人情報保護法27条を盾にとって法廷で闘った場合、第1項の「法令に基づく場合」という項目があり、この法令とは正に統計法第30条に該当する所となります。つまり、裁判で100%負けます。何なら知り合いか顧問の弁護士なりに聞いてみれば良いと思います。
まずは法人の方からいきましょうか。何度も先述している通り、特に集合住宅の管理会社ですね、「部屋の入居の有無」や「物件の場所や部屋数」のみを訪ねられた場合、これらは個人情報保護法の例外に該当するため「正当な理由無くして断ることはできません」。つまり、二つ返事で断ると調査員は「統計局長からの委託を受けた者」ですから法解釈としては「長」に準じる立場です(だから国家公務員なのです)。つまり、言い訳は通用しません。断った内容と事実は調査員から指導員へ、またその上の機関委任事務を行なう各市町村部局長へと報告が上がります。場合によっては統計法の違反行為「調査妨害」と見做されて50万円以下の刑事罰が課される場合があります。これは行政罰では無く刑事罰である点に留意しましょう(段ボール持った警察官がたくさん来ますよ)。個人情報保護を大事にするのも良いですが、法を正しく解釈して社内コンプライアンスを構築しないと、刑事罰の他に委託契約を解任されたりといったとんでもない事に発展しますので注意しましょう。また、調査員は必ず調査前に電話だと調査員番号と氏名を伝えるはずです。これで調査本部に本者かどうかの確認もできますので、よく聞いて対応しましょう。
また、希にですが調査員がどうしても調査できなかった方に対して「聞き取り調査」を管理会社に求めてくる場合があります。これは「聞ける場合のみ聞く」と調査員レベルではなっていますが、その上の機関から来た場合は、調査趣旨などをよく確認して応答した方がよいですね。
個人の場合は、実際に門戸を叩かれて調査票の受け渡しがされる時に初めて調査員と接触すると思われますので、先述の顔写真入りの調査員証、今年なら青いバッグ、或いはボードにて本物の調査員かどうかを必ず確認しましょう。何度も言いますが、調査員が訪ねるのは世帯主の氏名(任意回答)と調査票の必要枚数だけです。それ以外の聞き取りは行ないません。おかしな事を聞いてきた場合は偽物である可能性が高いので、もう一度調査員証を確認し、一旦ドアを閉めてロックをし、番号を控えて各市町村の国勢調査実施本部に問い合わせましょう。本物なら名前が明確になり、また出て行っても辛抱強く待っているはずです。一方で、ただ嫌だからと言って調査票の受取を拒否したり、頭ごなしに暴言を吐いて追い返したりすると厳密には「法令違反」となります。軽犯罪法違反、名誉毀損罪、威力業務妨害罪、公務執行妨害罪などに該当してしまい、これまた事実関係は報告が上がりますので、場合によっては思った以上に多くの罪状を抱えて警察のご厄介になる可能性が出てきますので注意しましょう。一応言っておきますけどNHKの話は聞くが国勢調査員の話は聞かないというのもおかしな話ですよ。国勢調査で有罪を受ける方が遙かにペナルティが大きいです。
繰り返しますが、国勢調査の回答は「日本に住む者の義務」なのです。また、調査員の行動には全てに「法的根拠」があるという点を知っておきましょう。
つまり究極は国家が法令に基づいた権力を使って、個人や法人に回答を強制できる事になっています。が、基本的に国民の全数による統計調査という事で総務省統計局も「かなり大目に見ている」という状況で「あくまで国民の皆様のご協力を得る」という建て前で動いているに過ぎません。指導員もそのようにレクチャーされています。
指導員は法的根拠に基づいた行動を行ない。それに応える国民は理解をした上で行動をしましょう。
えーと、もしかしたら管理会社にお勤めの電話番の方や、この内容を知ってドキッとされている方も多いのではないでしょうか。もし、国勢調査員から身分を明かされているにも拘わらず、社内コンプライアンスを優先してしまい、一つ返事で回答を拒否してしまった場合、確実に委任されている市町村部局と長、都道府県部局と長、そして総務省統計局長にまで報告が上がっております。委託管理会社の場合は市営・府営などの公営住宅の場合は、法令を理解していない会社であるとして解任される可能性があります。個人情報保護には例外がある事を知っておきましょう。社内コンプライアンスと国の法令ではどちらが優先されるかは大人なら理解出来ますよね。公共団体は委託先の企業や許認可を出している、いわゆる業者には特に厳しい態度で臨んできますので法令をよく理解した上で社内コンプライアンスの作成とマニュアル化をした方が良いでしょう。無理解な、あなたのたった一言で最悪大勢の方の職場が無くなりますよ~。
また、個人の方も書類の受取を拒否した場合は、確実に上位者へと報告が入っております。追い返してしまった後なら、正当な理由を考えておきましょう。しーらないっと。w
書類が入っている青い縁の封筒(2025年の場合)の「国勢調査のお願い」という大きな文字の下には、歴然と「国勢調査には回答の義務があります」と印字されていますね。これは個人情報保護法の例外である事をシレッと示していると解釈して差し支えありません。実は強制出来るが、ご協力いただく形を取ろうという総務省統計局の方針であるだけです。最近は個人情報保護法も叫ばれて久しく、その意識も高まりつつありますが、こういう法令遵守の事柄についても国や自治体が徹底してゆく意識が高まりつつある事も事実です。今まではなぁなぁで通用したことが通用しなくなってきていると言ってよいでしょう。自転車のルールなんかが良い例ですね。令和も7年が過ぎて、そう言う世の中になってきたんです。法律は社会生活でのルールです。正しく知って、正しく行動することが求められる時代になったという事です。