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良いカメラとは…?

今から四半世紀以上昔の、まだ私が若かりし日の頃。写真でお給金をもらって日々の生活をすると言う毎日を送っておりました。
その頃は当然まだカメラと言えばフィルムで、デジタルのデの字もありませんでした。ニコンはデジタルになった今も現役のFマウント、キヤノンはFDマウントからEFマウントに変わり始めた頃のお話です。
仕事では入社した時に宛がわれたカメラがニコンのF2というカメラで、当時私はキヤノンAE-1Pをプライベートで使っていた事もあって、ニコンのカメラの使い勝手に馴染めませんでしたが、人間というのは慣れるもので、撮影の比重が仕事の方が圧倒的にあったので、いつしか使いにくさも忘れてしまいました。
その後、F2も古くなったのでそろそろ買い替えようという事になり、その頃には撮影を丸ごと任されていた事もあって、後継機種の選定を任される事になりました。と言ってもやはり上司(師匠)の意見は聞かないといけませんので、バックにカメラ量販店が付いてくれていた事もあり、色んなメーカーの色んなカメラをデモで触らせてもらい、実際に撮影に使わせていただきました。この時に各メーカーのカメラに対する考え方や拘り方の微妙な違いを知る事が出来たのは幸運だったと思います。
とは言え、数あるカメラの中から、仕事で使う上で「良いカメラ」を選ばなければなりません。
素人チックに考えると、プロならやっぱりニコンF3、キヤノンならF1かT90(EFはまだそれほどレンズがなかった)辺りが真っ当と考えるかも知れませんが、色々と試した結果、私が出した答えは、当時1/8000秒の高速シャッターで売り出していたニコンのF801でした。
今のデジタル機で言うと、D750位の位置付けのカメラでしょうか。ハイアマチュアが使うそこそこのカメラと言う感じです。
これがなぜ私にとって「良いカメラ」となったのでしょうか。
 
仕事で使う場合は、カメラ本体においては、その操作性が重視される傾向にありますが、私が重視したのはファインダーの「視野率」でした。ニコンF3やキヤノンF1などの、いわゆるハイエンド機の視野率は持てる技術を投入されたクリアな100%です。つまり、ファインダーで見たもの全てがフィルムに写ります。

「それでいいじゃないか。さすがハイエンド、最高じゃないか。」

と、多くの方は思うかもしれません。しかしアマチュアの方ならともかく、プロの方が「フィルムカメラ」でそう仰っていたとしたら私は多分今でも「大してカメラを持っていないな…」と買いかぶると思います。口では誉めていてもね…(笑)。
フィルムカメラの場合は、紙焼き(印画紙焼き付けの事)にする場合、イーゼルマスクという機材によってネガの周囲がどうしても切られてしまうのです。これは機械焼きでも同じ事です。つまり100%の視野率で撮影しても周囲が切られてしまいますので、実際は100%眼で見たまんまを写真にする事は出来ないのです。プロが挙って使っていたポジフィルム(スライドフィルム)でも同じ事で、ポジを1コマ切ってマウント(スライドは厚紙で挟むでしょ?)に挟むと周囲が有無なく切られます。私の場合は、仕事で写真複写やポジのデュープ(フィルムの複写の事)も行いますので、そうなると100%に視野率と言うのが逆に災いして、目視で予めその切られる部分を計算して写す必要があり、非常に面倒で使いにくいものになるのです。
では実際にどれくらいの視野率になってしまうかと言うと、大体92%位になります。つまりフィルムカメラの場合は周囲8%分は切られます。ウソだと思うなら試しにフィルムカメラで撮影して35mmマウントに挟んでみると分かります。結構切られますから…。
で、私が選んだF801の視野率は92%なのです。つまりファインダーで撮影した景色のほぼそのままが写真やスライドになるという訳です。ニコンと言うメーカーは、こういう所はあまり宣伝はしません。しかし、こういう細かい所にまで拘っている辺りが、カメラマニアに好まれる所なのでしょう。
ちなみにAE-1PやT90は94%で、たった2%なのですが実際に複写系では使いにくかったです。
ここで勘違いしてはいけないのは、視野率というのはあくまで実際にフィルムに写る景色のファインダー内に見える範囲を率で表わしたものです。実際には視野率92%でも、フィルムには見えていない周囲の8%分も写っています。
ちなみに当時、AFで席捲していたα7000は既にあり、動標撮影に活躍していましたので候補から外しました。
操作系に関しては慣れます。はっきり言ってほぼ機械式のF2から電子式のF801というのは慣れが要りましたが、当時私も若かった事もあり、1週間ほどで慣れました。
つまり、1週間後には私にとってF801は「良いカメラ」となったわけです。
しかし今は、フィルムで撮影してもデジタルデータにして仕上がってくる時代です。そうなると92%の視野率は少し狭い印象がありますので、私は今は紙焼き写真にする場合はF801、デジタルデータにする場合はデジタル用のレンズも使えて視野率100%のF5を使っています。でも、どちらもほぼ出番はありませんけど…(笑)。
 
「何かおススメの良いカメラはありませんか?」
 
と私は結構聞かれる事が多いです。デジタルになった今もニコンを使っていますが、それを見て「ニコンが良いですか?」と二つ目によく言われます。でも、私にとっては「良いカメラ」でも、その方にとっては「良くないカメラ」かも知れません。それはメーカーイメージであったり、価格であったり、レンズであったり、操作性であったり、機能であったり…。
私は職業カメラマンだった事もあって、機能を重視して選ぶ傾向が強い方です。性格もひねくれているので「宣伝文句には必ず誇張がある」と疑ってかかり、この目で見るまで信じません。買ってから「その条件では出来ない」では私的には話にならないからです。
しかし普通にカメラが欲しいという方にとって、そこまでカメラを穿った見方をしてまで選ぶ必要があるかと言うと、私はノーだと思います。多くは実際にカメラを持った時のフィーリング=所有欲を満たす事が大事なんじゃないかと思います。機能云々は恐らくその次でしょう。

数あるデジタルカメラで、私的に「良いカメラ」だなぁ…と思い続けているのはニコンのD3xと言うカメラです。良いカメラと言うよりも私の中では伝説的になりつつあり「孤高のカメラ」と呼ぶに相応しい機材となっています。今となっては3~4世代昔のデジタルカメラで性能的には現在の中級機にも負けているような古いカメラですが、いつかは手にしてみたい名機です。
しかし人によっては、なんで今更あんな動画機能もない古いカメラ…。とか言われるでしょうね。そう、だから「良いカメラ」って、人と時代によって、クルクルと変わるものなんですね。