記事一覧

海水魚水槽のお話し。

今回は珍しく(?)写真以外のネタ。
ホームセンターやちょっとしたペットショップにある熱帯魚コーナーに足を踏み入れると、今もよく見掛けるのが南の島系の珊瑚礁の海を切り取ってきたかのようなカラフルな海水魚のレイアウト水槽。
到底一般的なご家庭には設置できないような大きな水槽と豪華な装備で飼育されている物もあるが、最近とりわけ目に留まるのが、25cm程の小さな水槽でイソギンチャクとクマノミをペアで飼育しているような、ちょっと昔なら考えられないようなシンプルな設備の海水魚水槽だ。
ちなみに熱帯魚と海水魚。一般の方には同じ物に聞こえるかも知れないがその手の方の間では前者が熱帯地域に生息する淡水魚を指し、後者は読んで字の如く熱帯の海に棲息する魚である。淡水と海水の違いがあるのだから、当然の如く飼育方法は違うし、飼育する難易度も実は海水魚の方が私の感覚では100倍は難しい。更に設備や生体などにかかる金銭も100倍かかるという感じです。今回は主に後者の海水魚の飼育に関する事をウンチクしてみたいと思います。
ちなみに私、淡水魚も海水魚も飼育歴は意外に長く、特に海水魚に関しては最終的に飼育方法と飼育に関する事において、一つの結論を導き出しています。だからウンチクできるのよ(笑)。それはまぁ後に述べるとして、本題に入りたいと思います。
 
ペットショップの入口辺りに、「こんなんどうですか?」と言わんばかりに、小じんまりと置かれた熱帯の海の切り取り水槽をみて、これなら我が家でも飼える!癒やしの空間を作りたい!と、海水魚スイッチが入ってしまった方も少なくないのでは無いだろうか。
で、思わず店員に「これはどうしているんですか?」
みたいな事から聞いてみたりして・・・。w
 
しかし、店員に話しかける前にここを読んでいるあなたはラッキーです。まずここで警告です。
 
あなたが見た(見てきた)その小じんまりとした海水魚水槽、実はとんでもないコストと手間がかかっております。その「私にもできそうな癒やしの海水魚水槽」こそが、沼への入口なのです。
規模の大小に拘わらず、海水魚を飼育するためには、以下の機材が"最低限"必要になります。最低限です。
 
1)水槽。これは基本。大きければ大きい程飼育には有利だがコストも比例して上がる。
2)密閉型外部式パワーフィルター、つまり濾過槽です。昔よくあった水槽の上に設置するやつは駄目です。45cmなら90cm用、60cmなら120cm用を買ってください。或いは2個。オーバーフロー式は高価だし床の補強も必要になる事があるのでここではパス。とにかく3層以上は欲しい。私はエーハイムの2236という製品を使っていましたが、オールインワンでなかなか使い勝手が良かった記憶があります。濾材もそのまま海水で使えます。
3)メタルハライドランプ。或いはそれに匹敵するLEDライト。LEDの方が電球の発熱が圧倒的に少ないので現在ではこっちが主流かな。
4)クーラー。これが買えないなら海水魚飼育はあきらめる事。実際の海のように水温を一定に保ち好条件を維持するためには絶対必要。これも45cmなら90cm用と2クラス以上の物を選ぶ。ショボいのを買うと水温を下げるのに時間が掛かり電気代も余計に掛かるしうるさいし排熱で部屋も暑くなるぞ。ちなみに照明はLEDライトが良いのはそういう事。
5)プロテインスキマー。細かい泡立てを行って海水を貧栄養に保つ機材。小さい水槽なら小型の外掛け式の方が水槽内のスペースを犠牲にしないのでお奨め。水槽内でのエアレーションは不要になる。
6)ヒーター。余程安物のクーラーでない限りヒーター用コンセントが付いているので、サーモスタットが内蔵されていない物を選ぶ事。これによりクーラーに温度管理を一任できるのだ。ちなみにこれも大きめの物を買う事。安物を買うと温度が上がり切りませんよ。
7)底面濾過フィルター。意外と使わない人が多いが海水魚飼育では必ず使う事。
8)水中用パワーヘッド。つまり水中ポンプ。これは底面濾過に接続して底水を吸上げるために使います。逆に接続すると、一部で流行っている吹き上げ式になるが、実際は底砂が踊ってとか想像のようにはなりませんし意味もありません。素直に濾過をするために吸上げる事。これスゴく大事なんです。
9)珊瑚砂(粗め)。水槽底面や外部式濾過槽に入れたりします。
10)珊瑚砂(細かめ)。一番上に敷いて綺麗に見えるようにします。お金に余裕がある方はアラゴナイトサンドとかライブサンドを使っても良いけど、私は高価なだけであまり意味はないと思う。
11)人工海水の元、比重計、水温計。海水を作る三種の神器。天然海水は熱処理が必要なので人工海水の元が結局安上がり。最初の頃は大量に要るので一番デカい物を買って置いた方が結局安上がりになる。
12)RO水。400円/10リットル位かな。結構高いよ。水道水でももちろん構わないが、水槽を回して2週間もするとコケだらけになるのでRO水を使った方が飼育は楽になる。金にモノを言わせて利を取るのは海水魚飼育の基本理念だ。最近は少し大きめのスーパーやペットショップでも有償で提供している。自分で作る装置も売っていますがメンブレンとか消耗品がバカ高いしRO水を作るのも時間がかかる(経験者は語る)。結局私は知り合いからRO水を貰ってました。
13)ライブロック。4000円/1kg位かな。SランクとかAランクのハイグレードな物を水槽の容量の10%以上の目方を目安に入れる。60cm標準水槽なら64リットルなので大体6~7kg。あまり入れすぎても水槽内で澱みが出来てよろしくないです。ライブロックは字の如く生きています。魚水槽だけでも強烈な照明を使うのは、実はこのライブロックの石灰藻を育む為であります。これを入れると水質は立ち所に海に近付きます。

以上です。お金かかります。(笑)
早速Amazonとかチャームとかで試算してみるといいです。げっ!てなると思います。どんなに小じんまりとした水槽でも、海水魚水槽である以上は、上記のどれも省く事はできません。設備の一部を省く事=確実に生体の飼育難度は上がる=コストと手間が増える=結局長期飼育は出来ない。という等式が成り立ちます。
そう、海水魚飼育とは金に物を言わせて癒やし空間を作り出す道楽だったのです。
ちなみに死んだらまた生体を飼う・・・という、事であれば金魚鉢で金魚のように飼う事も出来ます。ただ、淡水魚のように鼻上げして空気を取り込む方法すら知らない海水魚は、2日と持たないでしょうけど・・・。
つまり何年も海水魚をやっていた私の海水魚飼育に関する結論の一つがこれです。
 
「海水魚は、飼う物にあらず、見に行く物である。」
 
要するに、ペットショップや水族館で子供と一緒に、
「わぁ、きれいだね!」
ってやっているのが一番平和だと言う事だ。
 
それでも沼に入ろうとするバ・・・じゃなかった方はいる訳でして、そういう方のために、少しでも平和に長期飼育できるよう、上記の機材を使った海水魚水槽のシステム構築を書き記しておきます。最後に驚愕の言葉を述べるとして・・・(笑)。
 
水槽は大きい程有利だが実は60cmだとコストはかなり上がる。それに60x30x36の標準的なサイズの水槽は、実は海水魚水槽には向いておらず、できるだけ深さのある物が良い。色々使ってみたが、コスト的にもスペース的にも一番良かったと思えたのがADAが出しているキューブガーデンという水槽で横45x高45x奥30cmというガラス水槽。ADAが出しているだけあってお洒落だし信頼性も高い。お値段は14000円位だが、置いている店が少ないので通販で購入した方が良いだろう。深さ45cmは有難い深さ(後述)で、容量も50リットル程度なので、コストも下がるのでお奨めだ。

水槽を置きたい所に置いたら、底面濾過槽セットするが、後の目詰まりを避けるためにキッチンネットなどでくるんで輪ゴムなどで止める。吸上げ口には水中ヘッドを接続する。水中ヘッドの高さは任意で良いが低い(深い)と交換する羽目になった時に面倒なのである程度高い位置が良いと思う。次に珊瑚砂(粗め)をどっと水槽に放り込む。厚さは50mm位かな。この時点で後戻りできないよ。
その上にこの後放り込む細かい珊瑚砂と混ざらないように、網戸の網などを敷き詰める。ここはきっちりやっとこう。隅は少し折り返しを付ける位でも良い。全面からの見てくれは悪くなるかも知れないが、あくまでシステムを構築している気分でやって欲しい。その上に2cm位の珊瑚砂(細かめ)を敷き詰める。
それができたら、ここで人工海水を作る。まだ入れない。
買ってきたライブロックの封を解いて、げんこつ位の大きさの物を取りだして袋に入れ、金づちで叩いて砕く。あまり細かく砕いては駄目。2~3cm位の塊が主流になる程で良い。砕いたら、それを水槽の中に満遍なくばらまきます。これが後に嫌気性バクテリアのエサとなって水槽維持を助けてくれます。ここがミソなんだな・・・。
その上に3cm位の珊瑚砂(細かめ)を更に敷きます。
破片ながらもライブロックが入ったのでここで人工海水を珊瑚砂が隠れる位まで入れます。その上に更に網戸の網などを先ほどの要領で敷き詰めます。これで嫌気層と栄養層の出来上がりです。
ネットを敷き詰めたら、5cm位の厚さで最後の珊瑚砂(細かめ)を敷き詰めてください。好みでアラゴナイトサンド等を敷いても良いです。ただしオーストラリアの白い砂など、あまりに細かすぎる砂は底面濾過槽の吸上げに影響したり、水流で舞い上がったりしますので、私的には珊瑚砂(細かめ)が下限だと思います。最後の珊瑚層を敷いたらヒーターをセットします。壁面に吸盤で付けてもいいですが1ヶ月もすると吸盤が剥がれますから、珊瑚砂に半埋めするなりしてセットした方が良いです。続いて外部濾過装置の配管も行います。よく底面濾過槽と直結する人がいますが、意味が無いので独立してセットします。本能的に背面の角にセットする人が多いと思いますが、海水魚水槽ではライブロックを中央に組み上げますので、実は背面の真ん中にセットする方がスッキリします。この時点で外部濾過装置、クーラー、プロテインスキマーをセットして主用機器類をスタンバイ状態にします。独立式の電源タップを使うと便利ですね。まだ電源は入れませんよ。
さて、一方で底床を敷き詰め終わった所で15cmの高さを使いました。海水魚飼育には深さのある水槽が良いと言った理由、45cmの深さが有難いと言った理由はこういう事だったのです。60cm標準水槽だと高さは36cmなので21cmしかレイアウトの高さが取れないんですね。しかも60cmなのでライティングでコストもかかりますよね・・・。
さて、先述のサイズの水槽ならレイアウトスペースは幅45x高30x奥30cmあります。ここにライブロックを組み上げます。
ライブロックを組み上げる前に、組み上げる高さを見込んで人工海水を入れましょう。あまり多いとライブロックの体積で溢れるので少なめに・・・。
ライブロックは自由に組み上げて構いませんが、裏表があるので赤い石灰藻がたくさん付いている表面が上になるようにしてください。光が当たらない部分の石灰藻は早い段階で死んで白化します。
あと、珊瑚砂多少埋めてもいいのでしっかりと組む事。その為に5cm敷いたのです。背面ガラスにもたれかけたりはできたらしない方が良いです。水に澱みが出来るし掃除もしにくくなるので、できるだけ中央に盛り上げる形で組んだ方が良いです。
ライブロックが組めたら、所定の水位まで海水を入れます。最後に照明をセットして水槽の準備は完了です。照明については24時間式の電源タイマーを接続しましょう。水槽にもきちんと昼夜を作ってあげる訳です。
さて、水槽のセットアップが出来ました。
水槽内はライブロックだけがレイアウトされていますが、水は濁っています。本当に上手く行くのだろうか?等とおもいつつ電源タップのスイッチを入れてください。なお外部式濾過装置には起動方法が各製品にありますのでそれに従ってください。
全てがうまくできていると、水が勢いよく各装置類を駆け巡ります。海水魚飼育水槽の起動です。30分もすれば濁っていた水槽も次第に透き通り、翌日には驚く程透き通った水になっているはずです。
水温は26~27度にセットすると良いでしょう。私は冬季は25度、夏期は27度にセットしていました。
照明は水槽と言うよりもライブロックに当たるように調整してください。場合によってはスポット光が必要な場合もあります。ライブロックも今後入れる珊瑚やイソギンチャクなども南海の強烈な日光下で生を育んできた生き物ですから、それらを再現する必要があるのです。
しかし魚や軟体動物などの生体が入れられるのは1ヶ月程先になります。まだ水槽は起動したばかりで、濾過バクテリアなど有益な微生物が些少なためです。しかしライブロックを中心にそれらは次第に増えてゆきますが、微生物には餌が必要です。それはアンモニアだったりします。アンモニアは魚の糞から得られます。そこでパイロットフィッシュと言って、デバスズメなど安価で温和で丈夫な魚を2匹程入れてバクテリアを増やすという事をする人が多いのですがパイロットフィッシュといえども生体ですし、本命の魚でなければ愛着も今イチ湧きませんし、死んでしまう事も多いです。そこで私の場合は魚が入っていない状態でエサを毎日一つまみづつ入れます。アンモニアは腐敗したエサからも出るからです。そうする事でパイロットフィッシュを入れる事無く1ヶ月程でアンモニアを分解するバクテリアが湧き、続いて亜硝酸を分解するバクテリアが湧いて濾過槽内に活着します。こうなると一定量の生体を入れる事ができるようになります。
始めからたくさんの生体を入れないで、少しづつ様子を見ながら入れてゆきます。サラサハタなど始めは小さいですが、最終的に70cm位に育ってしまう魚とか、中・大型のヤッコ類等は他の魚を圧倒していまいますから避けた方が良いです。またイザリウオなど魚食性の強い魚も避けましょう。何しろ海はおろか大型水槽にもほど遠いスペースですから、小型の魚が5匹程度で満員です。一般家庭で気軽に立ち上げられる海水魚水槽はそんなもんなのです。
珊瑚やイソギンチャクは入れる前に海ぶどうなどが生育できるかどうかを見計らってから入れると良いでしょう。海草類が融けてしまう水槽では、大抵軟体系もすぐに死んでしまいます。
生体を入れたら、後はあまり触りすぎない事です。バタバタと生体が死んでゆく場合は大抵は水に原因があります。軟体の場合は照明の光量なども原因の場合があります。しかしそれらを何とかしようとして色んな添加剤や薬液を入れてみたりするのは良くないです。死滅したら生体を減らし、水の安定を図る事です。ライブロックが白化していたらライブロックを取り替える・・・と言う具合です。とにかく触りすぎない事。機材は上記の物で充分です。嫌気性バクテリアが低床内で活着し、この海水魚水槽が完全に起動するのは、実は1年近くかかります。それまでは無関心気味で良い位です。
 
ちなみに私はこのシステムにオリジナルのサイフォン式の造波装置(作り方はノウハウなので内緒)を足して、5年程足し水だけの長期飼育に成功しています。最後は状態が良くなりすぎたのか珊瑚が産卵をしてしまい、水槽が白濁し、一気に崩壊してしまいました(生体は知り合いの飼育者に寄付しました)。つまりこのシステムは私の海水魚飼育を色々とやった結果の結論的なシステムなのです。ベルリン式とかモナコ式とか何だとか世間様も色々とやっていますが、珊瑚が産卵にまで至った人は少ないと思います。でも考えてみれば上手く行っても崩壊するのが海水魚水槽なのかなという結論にも思い至ってしまったので、私はこのノウハウを胸に海水魚飼育の全てをたたんでしまいました。
よかったら、上記の方法を試してみてください。
 
なお、当方は責任は一切持てませんし、ご質問にもお答えできませんので悪しからず・・・。