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日曜劇場「VIVANT」を見ましたヨ。

いやぁ、色々と話題を呼んでいるテレビドラマ「VIVANT」を録画ではありますが拝見させて頂きました。当初は全然興味は無かったので見ていなかったのですが、このドラマに出てくる「別班(べっぱん)」という日本の防衛組織は本当に存在するのか。と、結構あちこちで聞かれたからです。
本題の前に、では、なぜ私があちこちからそんな「別班」の事を聞かれるのか・・・という伏線が出来てしまいますので、最初にお答えしておきますね。私、昭和の時代ではありますが、ほんのちょっとですが自衛隊歴があるからです。当時は陸上自衛隊が約30万人、海自と空自が各4万人で合計38人万人という大所帯の軍事組織でした。一応教育隊も修了し、そこの科目かは内緒ですが一般部隊も経験しております。この経歴を知っている方から聞かれるんですよね。
「別班」、モンゴル読みで「VIVANT(ビバンと聞こえる)」って本当にあるんですかと・・・。
なので、ドラマではどういう組織なのかと気になったので急遽、拝見させて頂いたという訳です。
その「VIVANT」というドラマに出てくる「別班」という組織は、日本の自衛隊内の組織の一つで、新人隊員の知能の高さや普段の訓練状況から選抜され、色んな試験をクリアした者が、今度は米国のミリタリースクールに留学し、2年ほどかけて諜報活動のあらゆる技術・体術を身に付けた後、日本に戻って今度は世界中の企業に民間人として潜伏し、日本を危機に貶めんとする、要するにテロリストの危機的行為を事前に食い止めるという任務を負い、日々企業活動しながら諜報活動もすると言う、なんともかっちょええ二枚目な職業として描かれています。しかも、その「別班」のメンバーは、素性は自衛官としての身分を持ちますが、作戦行動としては日本国は関知しない、つまりは何があっても知りません・・・という、都合の良い存在だと言う秘密戦隊の悲哀を感じる側面も持ち合わせています。一応とりまとめる司令官がいるようで、指揮系統はしっかりしています。作戦行動はその超エリート中のエリートというエージェント達が気転を聞かせながら、最終的には成功裏に導いてゆきます。まぁ、話は誰が味方で誰が敵なのか、二転三転して目まぐるしく話が進んでゆきますが、その辺はぜひ本編を見てください。
 
さて、本当にそんな「別班」という組織が今の日本の自衛隊内に存在するのか・・・?
 
現実的に考えた推測の域は出ませんけど、
はっきり言って結論から申しますと、敗戦後に国家警察予備隊から発展して発足した自衛隊には、諜報というか偵察する部隊はあって、それと思わせるような部隊は幾つか存在しますが、ドラマに出てきたような「別班」等と言うぶっ飛んだ組織は今も昔も存在はしないと思います。少なくとも私が在籍していた自衛隊では聞いた事もない部隊です。ペーペーの一般隊員が知るよしもないだろうと言われるかも知れませんが、その前に、そもそもあり得ないと考える方が普通です。

その理由は、
日本は自前の軍隊の事を専守防衛の組織という意味で「自衛隊」と呼んでいます。つまり「軍隊」ではないとされていますね。その根拠は日本国憲法第9条が根拠となっています。国は陸海空の戦力を保持せず、また交戦権も認めないというアレですね。だから、国会議員も役人も「自衛隊」と頑なに呼称し、決して「軍隊」ではないと言います。
では、海外からするとどうでしょうか。
海外には「自衛隊」等と言う呼称はありません。つまり自衛隊はどこの国が見ても「軍隊」なのです。しかし、日本国はそんな海外にも「これは軍隊ではなく専守防衛の為の自衛隊という組織だ」と言い張ります。これはどういう事になるかというと、実は国際法として「戦争のルール」という物が存在します。それは、簡単に要点だけを言いますと、軍服の着用を義務付けた上で、戦闘員同士は祖国を守る為に殺し合いをしても殺人にはならないが、非戦闘員は殺戮してはいけませんという物があるのです(米軍が投下した原爆が違法行為だと言われる根拠もここに在ります)。また、戦闘員を捕虜として確保した場合には、拷問は禁止され、丁重に保護下に置くようにという取り決めもあります。しかし、日本の自衛隊の扱いを見ると、海外へ行った自衛隊員は、その国の思惑で「軍隊」とも「民兵」とも「反乱組織」とも受け取れる訳です。これは、自衛官が捕虜として派遣国に確保されると、都合によって拷問や殺害されても文句は言えないという非常に危険な状況になってしまう事を意味します。これを頭に置いておきましょう。

さて、
国は関与しないと言いつつも、曲がりなりにも自衛隊組織に組み込まれている「別班」の人間を、司令官の命令によって海外でテロリストが相手だとしても、早い話が諜報(調査)の活動を行うという事は、これは間違いなく「戦争準備行動」と解釈されても文句は言えません。特に関係性の悪い国等は「日本は戦争行為を既に行っている」とまで言って捲し立てるでしょう。実際に戦前の日本にはそういう諜報組織があって、真珠湾の様子を調べたりしていた事も事実ですから・・・。
 
つまり、そんな別班などを派遣して、もしスパイだとバレて敵国に逮捕されたとしたらどうなるでしょうか。いくら日本政府が「そんな人間は知らない」と言ってみたところで敵国は言う事など信用するはずがありません。まずは多額の賠償金と言う名の身代金を要求して取引を迫ってくることでしょう。それでも日本政府がバッくれたら本当に拷問して何を調べていたのかを聞き出した挙げ句に残酷非道な殺害をしてしまうかも知れません。更にそんな死体をSNSに「日本のスパイ」というタイトルを付けて全世界に放映されたりもするかも知れません。そんな事態になったら、今現在、ただでさえ低迷している岸田政権どころか、自民党その物が木っ端微塵になってしまうでしょう。その前に、いくら選抜されたからと言っても、「身分は自衛官やけど、敵に無残に殺されても知りまへんで」なんて、そんな危なっかしいイーサン・ハントのようなエージェント役を引き受ける奇特な自衛隊員が現実にいるとは、私にはどう考えてもいるようには思えないんですよね。しかも一人二人じゃなくて、永久的にですよ・・・。日本が自衛隊員を国家の命令によって海外に派遣するという事は、内外にとてつもなく大きなリスクを負うことになるのです。だから、自衛隊員の海外派遣は慎重にならざるを得ず、また非戦闘地域でのPKO(国連平和維持活動)に限られる訳です。ちなみに実際に戦闘を行う部隊として派遣される軍隊はPKF(国連平和維持軍)と呼ばれ、日本は未だPKFとしての派遣は行っていません。

あなたならやりますか?

ちなみに、自衛隊という組織は、レンジャー部隊や空挺部隊など、とても厳しい訓練を行う部隊もありますが、基本的には自分で志願して訓練に参加し、修了したら徽章を受領するという形式になっています。選考されてなれるのは「三佐」以上の階級で、自衛隊は階級制ですから、別班の人達が「選抜」されているという事は、全員「三佐」以上の高階級の方達という事になります。また司令官はいますが上司を「司令」と呼ぶことはありません。また、それだけの組織を動かすという事は統合幕僚監部か陸上幕僚監部の幹部職員という事になりますね。日本国とは切り離すという事ですからシヴィリアンコントロール(軍の文民統制)という日本の原則からも外れます。この点から見ても、やっぱりドラマだなぁと思いませんかね。
ドラマでは、その別班の方達の秘密裏な愛国活動によって日本では今までテロ行為が一度も行われていないという話になっていましたが、現実的に考えると、日本は自由すぎて海外のスパイからすると、色んな意味で「天国」であると言われています。情報を交換することはもちろん、軍事転用できる部品も秋葉原等で簡単に手に入るし、まさにスパイ天国です。
そんな東洋の端に存在する都合の良い国をテロで破壊するメリットはほぼ無く、そのままスパイ天国として存続させておく方が意味があるからです。中国やロシアが日本を欲しがるのは別の意味があって、中国からすると太平洋に出る為のフタをされているような存在であり、ロシアも凍らない港(軍港)が欲しいという、諜報とは別の領土に関する欲求があるからです。何も別班が裏で活躍しているとは私は思えません。
 
良い例を挙げると、かつてのテロリストの代名詞にもなったウサマ・ビンラディンを殺害したのは米国の女性エージェントでした。彼女を組織に送り込み、ビンラディンに信用させて近付かせるまでには、途方もない工作と数千人単位の人間が後ろで動いたことでしょう。万一の時には救出作戦をその都度状況に応じて考察していたとも思えます。自衛隊がテロを防止する為に、これに類似することをあちこちで行っていたとしたら、もうとっくにCIAのようにメジャーな存在になっているのではないでしょうかね。
 
と、私からは以上です。