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4630万円のネコババ犯がついに逮捕。その容疑は・・・。

先日から世間を賑わせまくっている4630万円の交付金ネコババ男の件ですが、ついに警察が重い腰を上げて逮捕に踏み切りましたですね。容疑は「電子計算機使用詐欺」らしい。

刑法246条の2
前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

コンピュータを使った不正な利益を得んとする者を想定して昭和62年に設定された比較的新しい刑法の詐欺罪の追加条文である。
追加で知った事だが、男は入金を知ってからスマホを用いて何度も口座にアクセスし、複数回にわたって数十万から数百万を引き出して使い込んでいたようである。スマホを使って・・・という点を重視して警察は不当な利益を電子計算機で行ったという事で「電子計算機使用詐欺」の容疑で逮捕したように思える。
 
逮捕内容がそのまま書類化されて送検され、検察も「はいそうですか」とそのまま起訴する訳ではないので、最終的な起訴内容はまだ分からないが、とりあえずはそういう容疑という事だ。
しかし、
「電子計算機使用詐欺罪」というのも、過去に似た例で判例があったりして、それっぽく見えるし警察の気持ちも分かるんですが、私的にはかなりこじつけな容疑に思えるんですよねーー。
この刑罰の構成要件は以下の通り。

1)電子計算機に虚偽や不正な指令を与えて、財産を得たり、借金を減らしたり、名義を変更したりする事。
2)虚偽の電磁的記録を、担当者などに伝えて事務処理をさせる事で自分の財産を不当に得たりする事。

のようである。
サクッと言うと1)と2)の違いは、自分でやるか、人を騙くらかしてやらせるかの違いのようですね。
実際の裁判例を見た方が明朗かも知れないので、ネットに転がっていた例を書き出してみると以下の通り。

1)銀行のオンラインシステムにウソの振り込み送金情報を与えて不当に利益を得た。
2)信金の支店長が、入金の事実がないのに預金係に端末を操作させて、預金入金があったとする情報を与えた。
3)プログラムを改変して預金残高が減らないようにした。
4)他人のクレジットカードを無断で使用して電子マネーを購入した。

等々です。
最後の4)は該当していないと思われますが、最高裁の判例でカード保有者が関与していない事を理由として虚偽の情報の入力であると判断し、電子計算機使用詐欺罪を認めた特異な例です。
 
さて、条文から判例まで列記してみましたが、今回の男の行動で、どこかこの罪刑に該当する部分ってあるのでしょうか?
とりあえず起訴に持ち込めば、あとは裁判所が上手く取り繕ってくれるってな考えではないと信じたいですが、少なくとも私には、刑法246条の2に該当する部分がどこにあるのかさっぱり見えてきません。男は自分の口座に自分の情報を打ち込んで、誤送金された金を引き出して使い込んだ訳ですから、そこに「虚偽の情報を与えた」という事実や因果が全く見えてこないのです。
電子計算機使用詐欺罪というのは、わかりやすく言うと、ATMやネットバンキングシステム等の「機械=電子計算機」を騙くらかして金を搾取した時に成立する罪です。男は金を引き出すのに誰も騙してはいません。不当な利得があった事を知った時点で申し出る義務があるというが、それは電子計算機云々では無くただの詐欺罪で立件できます。やはり論理破綻しているように見えるんですね。
男が実際に行った行為は、スマホを使って人の金を、持ち主の意に反して自分の占有下に奪い取った事です。これは誰が見ても明らかな事実です。占有を奪う行為は窃盗罪です。それが回り回ってなぜ電子計算機何とかになるのか訳が分かりません。
ま、まだ、検察の判断などで今後の展開はまだ分からないですから見物する事にしましょう。
 
それよりも、人によったら職員は誤送金にいち早く気付いたんだから、その時点で男の口座を凍結して、銀行に掛け合ってとっとと取り返せば良かったじゃないか・・・と考える方も結構いると思いますので、この点について説明しておきたいと思います。
例えば、盗まれた物を自力で発見した場合、それを自力で取り戻して家に持ち帰ったら窃盗罪に問われます。変な話ですが、こういう自力で取り戻す行為を「自救行為」と言います。または自力救済とも言います。これは日本では原則的に禁止されている行為です(もちろん緊急性の理由から回復困難な状況等を勘案して例外となる場合があります)。
窃盗によって失った物を、近所の庭で見つけたので、自力で持ち帰ると自分が窃盗犯になる・・・。被害者にしてみればおかしな話に思えるかも知れませんが、仮に自救行為を認めてしまうと、あなたが身に付けているアクセサリーや鞄などを突然他人に指さされて「それは私が盗まれた物だ!返せ!」と、いきなりブン取られるような事が横行して社会が混乱してしまうからです。
この自救行為の禁止によって、今般の事件でも職員は男の口座に入った4630万円を確認はしていたのですが、取り戻す為にはその男の確認と自分の物ではないという公的な認定が必要だったのです。公的な認定とは、警察など行政機関の確認と認定です。これがあって初めて銀行は4630万円を元の鞘に戻す手続きが出来るわけです。件では、この直前で男は「公文書を出せ」と言って拒んでいますので、手続きが出来なかったんですね。しかし、口座の一時凍結は可能だったと思われますので、やはりそれは行うべきでしたね。