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コロナ禍が生んだ新興ビジネス・・・?

テレビのワイドショーというのは、時に耳目を疑うような、或いはびっくり仰天するような話を教えてくれる事がある。今し方見ていたバラエティに近いワイドショーを見ていて私的にびっくり仰天させられた話題が飛び出してきたのと同時に、まぁコロナ禍が生んだ新興ビジネスって事になるのかなぁ・・・いや「新興」ではないか・・・と、ちょっと首を傾げる事態になったので、自分的に話題の裾野を広げて考察してみた次第です。
 
そのワイドショーが教えてくれた話題というのが、女性(男性もいるのかな)が使用したマスクをネットのフリーマケットに出品して販売するという物であった。
折しも歴としたウイルス感染症である新型コロナ(Covid-19)が飛沫感染を要因として流行している昨今に、その感染の危険性の一番高いと思われる他人の口泡飛沫がたくさん含まれたマスクを売り、それを挙って購入する者がいるという事に仰天したのである。ちなみに新型コロナ感染症では口と口を付けた(=キス)場合の感染確率は、私の記憶ではおよそ57%とされているので、間接的ではある物の、買った人間がそのまま装着すると充分な濃厚接触という事になる。ちなみに私的にはコロナが流行っていなくても、他人のマスクの使い古しを「あげる」と言われても絶対に要らないのですが、まぁ、個人には嗜好という物がありますので、そこはとりあえず触れるのは止めておく事にしよう。
さて、法律の話題がちょっと続いたので、ついでにこの中古マスクの販売についてもちょっとだけ法的な事を触れておく事にしよう。
結論から申しますと、使用済みのマスクに口紅が付いていようと、唾液やタンが含まれていようと、売る事にも買う事にも法的には問題はございません。また私の記憶では各都道府県の条例にも(今の所)抵触していないはずです。東京都や大阪府などでは、下着類などの猥褻物品の売買は条例により禁止されていますが、使用済みのマスクは含まれていないからだ。詰まる所、自己責任で売買してくださいという状態になっています。ちなみにその使用済みマスクの価格相場は現在300円前後だとの事だった。これに対し西村ひろゆき氏は、1ヶ月分まとめ売りしても9000円だと考えると、普通にバイトをした方が収入になりませんか・・・?とツッコんでいましたが私も同感です。しかし売る側(女性?)からすると、使い古した下着や水着を売るよりもハードルが低い感覚があって、ゴミが金に変わるという感じで販売している事が多いのだろうと推測する。ちなみに完全裸体の写真や絵画、文書など直接的猥褻物の売買や配布に関しては刑法175条により猥褻物頒布等罪として規定されているので犯罪行為となる。売春防止法もそうだが、日本の刑法は犯罪の成否に被害者の有無は関係なく「要件を満たしたら罪」となっている(これ大事)。
しかし、下着類や生活使用物品などの売買(頒布)については事実上規定されていないので、実際はどこからが猥褻物でどこからがそうで無いのかの線引きがよく分からないのが実情である。と言うのも、性的な嗜好というのは年齢性別に拘わらず、個人によって千差万別に存在するからだ。わかりやすく言うと、下着類よりも帽子(のにおい)に興奮するという者もいれば、眼鏡に愛情を覚える者も実際にいるという事だ。
そう考えると、私もずっと以前から思っている事なのだが、「性的な嗜好」と言う物を考えると、ネットのフリマやオークションで普通に出回っている中古(使用済み)の衣服類と、今般の使用済みマスクの、どこがどう違うのかという疑問にぶち当たるのだ。私的には中古品の全てが使用済みマスクと同じ次元になってしまうのではないかと思うのだ。そこに反論として入ってくるのが「社会通念」という事になってくるのだが、その社会通念と言うのも水物で、時代や一般庶民の生活態様、考え方によって変遷するし、強いては議会での議決や裁判の結果如何によって一気に様相が変わる事すらある。ネットを媒介にした売買取引では、売った側も買った側も個人情報保護の観点から一定の匿名性が保たれており、実際の取引相手の氏素性は分からないので、例えば普通に着ていたセーターを売ったが、買った側は実は性的嗜好で購入した可能性もあるわけで、実は売る側がそれを想像できるか否かによって社会通念=ハードルが上がったり下がったりするのである。だとすれば、下着類の販売を禁じているという各都道府県の条例も、社会通念上は理解できるが、突き詰めてゆくと、実効性があるのかどうか・・・という所に行き着くと私は思う。
そう、法の実効性である。
これが無ければ、いくら立派な主旨で法律を作っても無意味な物になってしまうので、とても大事な要素だ。ここまで話が来ると、もう少し裾野が広がって日本国憲法21条で保障されている「表現の自由」という所に行き着くのである。これは、例えばカバネルなど昔の有名芸術家が描き遺した女性裸体の絵画を猥褻画とする者はほぼいないだろう。しかし一方で、以前には写真家の加納典明氏が撮影した女性のヌード写真は芸術では無く猥褻物であるとして摘発対象になった事もある。ではその境界線はどこにあるのかという話である。もっと解りやすく言うと、女性が自分の使用していた下着をそのまま売ったら猥褻物を売ったとして条例違反に問われるならば、その下着を立派な額縁に入れて豪勢な装飾を施し、ご丁寧に表題まで付けて芸術品であるとして出品したとしたら・・・。
とどのつまりは、無名監督のエロビデオはダメで、黒澤明監督のエロ場面のある映画はOKなのかと言う話に発展し、結局刑法175条は、日本国憲法21条に抵触しているのではないか・・・?
という話になってくるのである。
実際に刑法175条違反で公判(刑事裁判)となった場合、憲法21条等を用いて争われる事が非常に多く、最高裁まで話が行く事も少なくない(刑事裁判は三審制度が敷かれているが、一審で憲法違反の判断がなされた場合、高裁を飛び越して最高裁への跳躍上告が可能となっている、これは最高裁だけが違憲立法審査権を持っているからです)。これには有名な裁判例がたくさんあり、ネットで調べるとすぐにヒットすると思うので、興味のある方は検索してみると良い。
こうやって一つ一つの話題を法的に照らし合わせてゆくと、法律があるのだから結果は一本道だとは決して言えない現実がある事がよく分かると思います。弁護士や検察官によっても法の解釈によって意見が分かれますので、ここに法廷で争う余地が残されているという事です。

さて、
1枚300円で女性が販売する使用済みマスクの話が、なんと日本国憲法にまで及び、法曹でもない私には手も足も知識も届かない議論がされている範囲にまで到達してしまったので、法律的な話はここまでにしますが、私的な結論として、ネットのフリーマーケットというツールで、個人が匿名でいとも簡単に世界中の人間を相手にアピールをして商売ができる時代となった昨今、今まで普通に捨てていたゴミが、意外な収入をもたらす事もあるという事例であると捉えておきたいと思うが、切った爪や、剃ったスネ毛なども売られているのかな・・・等と想像すると、何だか薄ら寒い気がしてくる昨今です。