記事一覧

宇治川で、初めて鵜飼いの実演を見てきました

数年前に岐阜へヒメボタルの撮影に行った際に、岐阜城から長良川を挟んで見下ろすような場所に「鵜飼いミュージアム」というのがあり、昼間で暇だった事もあって入ってみた事があった。
入園料500円と駐車場代200円が高いか安いかは別にして、鵜飼いミュージアムでは案内人がその伝統漁法である鵜飼いに関する事を一から十まで教えてくれたり、映像で説明をしてくれたりするので、鵜飼いに関してはちょっとした博学になれる程の知識が付く。

少しその知識を披露すると鵜飼い漁とは知っている方も多いと思うが、鵜匠と呼ばれる鵜の使い手さんが、紐で括った5~6羽の鵜を操って、鵜に魚を捕らせる。鵜の首は程よく紐で絞められており、鵜は魚を捕っても飲み込む事が出来ない。その鵜を鵜匠は手繰り寄せて喉に留まった魚を吐き出させて魚を捕獲するという日本の伝統漁法だ。
鵜は基本的に何でも食べる野鳥なので漁ではアユ、マス、ナマズ、大きさによってはブラックバスやブルーギルも捕まえてくる。一方の魚は、突然来た舟の陰に驚いて岩間から篝火の下に飛び出してくるので、鵜はその魚をすかさず捕まえるという、正に生き物の習性を利用した伝統的と言うに相応しい漁法と言えるだろう。しかし、鵜はウナギだけは苦手なのだそうで、鵜が難儀する→ウナンギ→ウナギ・・・となったとか、ならなかったとか・・・(^_^;)。
実はヒメボタルのその時期、長良川では既に鵜飼い漁が始まっていたのだが、その時は見る事もなく結局本命のヒメボタルを撮影して帰阪した為、その後鵜飼いを見るという事は無かったわけですが、最近になって興味が湧いてきた事もあって色々と調べてみると、以下の事が分かった。
 
1)長良川の鵜飼い
世襲制の鵜匠が9人いて、全員が国家公務員という身分。一番伝統を重んじている地域集団なのかも。5~6舟で「総構え」と呼ばれる追い込み漁のような勇壮な鵜飼い漁を見る事ができるのはここだけだ。

2)木曽川の鵜飼い
女性の鵜匠が彗星のようにデビューした事で一躍有名になった。日中に鵜飼いをやる事もあって犬山城と一緒に撮ったり、色々な鵜飼いの姿を撮る事が出来るようだ。

3)宇治川の鵜飼い
女性の鵜匠と言うと実はこちらの方が大先輩のようです。現在三人いるうちの二人が女性鵜匠です。ちなみにうちから一番近い所にある鵜飼いの現場です。

4)嵐山の鵜飼い
まさか嵐山にもあったとは知らなかった。昼間は貸しボートが浮かんでいる辺りで夕刻から鵜飼いをやるようだ。そのうち行ってみたい。
 
他にもあるんだろうけど、私の足の伸ばそうと思える範囲だとこの4カ所だった。で、今回行ってきたのはやはり一番近場となる3)の宇治川の鵜飼い。勇壮さがウリで女っ気など微塵もない長良川の鵜飼いでお勉強してきた私にとっては、ベテランと言えども女性鵜匠って体力的にどうなんだろうって勝手に心配していましたが、宇治川の鵜飼いは勇壮というよりも京都らしく漢字一文字で表すとやはり「雅」という事になろうか。貸切舟は既に二舟が川面に出ていたが、乗合舟は18時半頃から乗船が始まり19時に鵜飼いの現場に行く感じになる。今回は私は舟には乗らず川土手から撮影する道を選んだ。
ファイル 150-1.jpg
こんな感じで鵜舟が乗合船を追う形で静かに出航する。いつもアオサギとカモが一羽づつついてくるそうな・・・(笑)。乗っているのは四人だが船頭を除く三人が鵜匠だ。指導役の老爺は主に篝火を担当する。コロナの時期と東京五輪の開会式直前時刻という事もあってか、乗合船はある程度満員だったが土手からの見物人はまばらだった。

ファイル 150-2.jpg
鵜籠から鵜を一羽出して鵜匠が鵜飼いの説明を一通り行い、いよいよ鵜飼いの始まりである。見物舟三舟をロープで繋いで鵜舟が漁をしながらその周囲を回るような感じで披露される。普段は普通にいる鵜で、私的にはカラスのような存在だが、鵜匠に飼われた鵜は従順で可愛らしさを感じ来てしまうから不思議だ(笑)。

ファイル 150-3.jpg
篝火に薪が足され火の粉が舞う。その後ろでは鵜匠が鵜籠から6羽の鵜を川面に放っていよいよ宇治川の鵜飼い漁の始まりである。

ファイル 150-4.jpg
この時期の19時過ぎは、まだ陽光が僅かに残る時間帯で、その分撮影はし易い。鵜も魚を見つけやすいのか、早速魚を咥えている鵜がいたりする。それよりも、6羽もの鵜を紐が絡まないように手繰って漁を行う鵜匠の腕前はさすがにお見事で、写真を撮るのを忘れて見入ってしまうほどだ。時折鵜を高揚させるのか「ほー」という声を上げたり、川面に手を入れたりして、とにかく忙しくも動きに無駄がない。で、鵜が見事に魚を捕らえると鵜匠はすかさずその鵜を手繰り寄せて鵜から魚を吐き出させる・・・。ちなみに魚を餌にする鳥類は必ず頭から飲み込む。これは魚がエラなどで喉に引っかかったりしない為なのだが、魚を吐き出させるという事は、鵜からすると喉に骨が引っかかる方向に魚を出す事になる。この吐き出させ方も鵜匠の腕の見せ所だったりするのだ。鵜匠も慣れないうちは吐き出せる事が出来なかったり、鵜の喉を傷つけてしまったりするようで、やはり普段からの研鑽が必要なのだろう。

この女性鵜匠さんはキャリア10年以上のベテランの域にある方のようで、実は前日にもテレビニュースに出ておられました。鵜の手綱捌きは見事なもので、鵜が魚を飲み込むとすかさず手繰って「吐かせまーす」と言いつつスムーズに鵜から魚を捕りだしていました。いや本当にお見事。京都の宇治という場所柄も相まって、時間は穏やかに、見事な鵜飼いと共に過ぎてゆきました。

最後になりましたが、宇治川ではこの鵜を日本で初めて人工ふ化に成功させており、既に若鳥と言うまでに成長した鵜達が飼育されています。この宇治川生まれの鵜達を総称して「ウッティー」と言うそうです。鵜と宇治の「う」にお茶のティーを掛けてウッティーとなったのでしょうか。ウッティー達は漁に出る野生由来の鵜達よりもまだ一回り小さいですが、鵜匠を親と思っている利を生かして、現在なんと鵜の放漁、つまり手綱無しでの鵜飼い漁の練習をしているそうです。これが成功したら本当に凄い事です。

ちなみに・・・
鵜は魚へのアタックが強くて捕らえた魚は殆どが即死状態らしく、現在ではその魚を料理して客に出す事はないそうです。これは他所の鵜飼いでも同じです。と言う事は鵜飼いの披露が終わったあとで鵜達のご褒美になるのかな・・・。

初めて見る宇治川での鵜飼い、しばしの時間ではありましたが、贅沢な時間を戴いた、そんな気持ちにさせて頂いたひと時でした。
ファイル 150-5.jpg